夏を超えた映画[Vol.3]最近作「閉鎖病棟」・「楽園」・「影裏」に見る俳優【綾野 剛】その可能性の中心

あれほど暑かった夏も過ぎてしまえば恋しく感じる今日この頃、皆様いかがお過ごしでしょうか?

コロナ禍になって改めて気づいた我がインドア志向はGo to トラベルはもちろん、シルバーウィークともほぼ無縁。でも映画鑑賞はインドア派、アウトドア派問わず楽しめる娯楽の王様。今回も秋の夜長の映画紹介で盛り上げていきますよー。(カラ元気!(^^)!)

さて、皆さんにはお気に入りの俳優さんっていますか?すでに映画、テレビ等で大活躍されている俳優さんで特に意識はしてなかった、つまり熱烈なファンでもないのだけど、観る映画、観る映画に「おいまた出てるんかい!」の役者さんあるある。ついに夢にまで出てくるようになっちゃった、私にとって放っておけない人、その名も綾野剛さんの魅力を最近観た映画三作品で紹介したいと思います。

綾野剛が最初に注目されたのは芦田愛菜ちゃんの出世作「Mother」での愛人(尾野真千子)の連れ子を虐待する鬼畜男。あまりにもピッタリなキャスティングで怖いくらい。これがブレークのきっかけらしい。

そして翌2011年下半期の朝ドラ「カーネーション」でヒロイン尾野真千子(またも!)の道ならぬ恋人役で一気にお茶の間に浸透。色白、しょうゆ顔で三味線なんぞ弾く謎めいた仕立て屋として強烈な印象を残しましたね。そう、今でこそ堂々たる主演を張る彼は実は助演で光る人でもあります。

一本目はそんな彼が助演に回った「閉鎖病棟-それぞれの朝-」(2019年)

原作は現役の精神科医である帚木蓬生の山本周五郎賞受賞作『閉鎖病棟』。『愛を乞うひと』の平山秀幸監督が脚本も担当。やんごとなき事情によって長い間精神科病棟に入院している個性豊かな人たちの群像劇に暴力と殺人事件を絡ませてヒューマンドラマに仕上げた作品。

死刑執行の失敗から脊髄を損傷し、車いす生活で入院している主人公を鶴瓶が演じ、綾野剛は統合失調症の既往歴から投薬で生活がコントロールされているにもかかわらず家族から退院を拒まれている青年役。そこへ暗い少年のような面差しの小松菜奈が家族に連れられてやってくる。


精神科病棟の知識はないけれど、なるほどこんな風な入院生活なんだと思わせる部分と、フィクションを盛りすぎた部分(病院内でのレイプや殺人事件)との落差が大きくて、本当に描きたかったことがぼやけてしまった感はあります。ありますけど、それを補って余りある奥行きのある芝居を綾野剛が見せてくれました。病気による過去の記憶、フラッシュバックする恐怖、母のもとには帰れない諦観、必要とされる人間への渇望・・・複雑な背景とやるせない現実をさりげない芝居で表現して決して主役は食わない・・・綾野剛の俳優としての誠実さ。そして彼の大きな魅力の一つ、この人を助けてあげたいと思わせる「かわいそう感」が希望を感じさせるラストと相まって後味の良い映画になっています。






二本目はそんな綾野剛のかわいそうオーラ全開の映画『楽園』(2019年)。 佐藤浩市とのダブル主演。

「悪人」「怒り」が映画化されてきたベストセラー作家・吉田修一の短編集「犯罪小説集」をもとに、「64 ロクヨン」の瀬々敬久がメガホンをとった作品です。

ストーリーは12年前の未解決の少女誘拐事件の被害者の友達、紡(杉咲花)と、かつてと同じY字路で再び少女が行方不明になった事件の犯人として疑われる孤独な男・豪士(綾野剛)との交流。さらに、Y字路に続く限界集落で愛犬と暮らす養蜂家の善次郎(佐藤浩市)の村おこし事業を巡る話のこじれから村八分にされてしまう2つの悲劇の物語。

もう、この映画の綾野剛は、家に連れて帰って温かいご飯食べさせて、お風呂に入れて寝かしつけてあげたい、濡れ雑巾のような捨て猫レベル。思いっきり感情移入したところで起こるあまりにも…の展開に絶句しましたよ。ほとんど地獄のような閉鎖的集落で人間が壊されていく過程とそれに加担する無自覚な善意の人々。『楽園』っていったいどこのこと?このタイトルは12年前の誘拐事件の喪失感と疎外感から、排除される側の2人に寄り添う懸け橋のような存在として描かれる紡の姿と未来への希望なのでしょうか?観る人の判断にゆだねられたようなラスト。皆さんはこの映画からどんなメッセージを受け取りますか・・・?






そして最後の一本は松田龍平とのダブル主演で今年(2020年)公開の『影裏』。

原作は盛岡を舞台に描いた沼田真佑のデビュー作で芥川賞受賞作の同名小説。監督は岩手出身で『ハゲタカ』や『るろうに剣心』の大友啓史。

並べてみれば意外にイケメンなのか?綾野剛

松田龍平はデビューが大島渚監督作の準主役でサラブレッドの存在感を放つ華のあるスター役者なのに対し綾野剛のデビューは仮面ライダーの怪人役とずっと地味。ルックスも美形とは言い難く、どこにでもいる兄ちゃん風。でも、ここが彼の強みの一つ。美しすぎないがゆえに生じるリアルさ。『影裏』の舞台になる盛岡に転勤してきた会社員の居心地の悪い風情がしっくりとなじむのも綾野剛ならでは。盛岡の地で唯一心を許せる存在だった同僚日浅(松田龍平)の突然の失踪と日浅の裏の顔を今野(綾野剛)の視線で追っていく内容なのだけど、今野自身にもちょっとした秘密があり、これがまた綾野剛にピッタリはまってるんですよ。これは観てのお楽しみ。ここは試しに日浅と今野の役を逆のキャスティングで想像すると綾野剛の唯一無二さが際立つと思うのだけどどうでしょう?

日浅の奔放で人たらしの性格はチャラ男をやらせても天下一品(リップヴァンウィンクルの花嫁の綾野剛、弾けてたねー)の彼なら難なく自分のものにしちゃうでしょうね、きっと。だけど本当の自分を隠さざるを得ない後ろ暗い今野の役は松田龍平では無いなって(龍平ファンだけどさ)、思う。持って生まれたスターオーラを殺して芝居するのってやっぱり不自然なんですよ。そういう意味でも日浅の役は松田龍平がドハマりで、今野役は綾野剛で大正解。そしてこの映画、美しい岩手の自然と裏腹のミステリアスな内容にヒヤヒヤしたりハッとしたり、楽しみながら綾野剛を愛でる映画になってます。眼福を得ること請け合い、ファンもそうでない方も、、、あぁこれ以上は言えません🤐

日浅(松田龍平)が別の顔を覗かせる夜釣りのシーン




いかがでしたか?綾野剛さんの魅力が少しでも伝わりましたでしょうか?

最後に、今回の紹介作品から見える俳優 綾野剛の凄さを考察しますと…。三作品の彼が演じる役柄には共通項が幾つもあります。「暗い性格の青年」「マイノリティー」「隠さざるを得ない過去を持つ」など。共通項のある役柄を別々な作品で演じること。これって俳優にとって相当難しい作業ではないでしょうか? 公開年も3年と離れていませんから撮影もかなり近い時期だったと思えます(重なっていた可能性もあり)。別の俳優さんであればこんなケースはどれかの出演を見合わせるかもしれませんね。しかし、彼は三作品の役柄を見事に演じ分けています。一見、綾野剛というキャラクターが役柄を演じているように見えて、綾野剛という裸の俳優が作品ごとに与えられた役を演じ切れている。こんなイメージを持ちました。当たり前と言えば当たり前ですが、役柄ではなく俳優自身の記号的キャラクターだけで安直にキャスティングされる昨今のスター俳優達とは一線を画す存在ですね。ただし、その存在感ゆえのパラドックスもあると思います。作品世界から逸脱することなく、役柄を生きる演技に徹する綾野剛は作家性の強い監督達にとって今後も引っ張りだこでしょう。あえて悪く言えば、日本的ドメスティックな了解のもとに成立する閉じた映画作品ばかりが彼の主戦場になってしまう懸念は少なからずあります。願わくば、活動の場を国外にも広げてアジア、ヨーロッパ、ハリウッド映画にも挑戦してもらいたいです。海外でも才能あふれる映画製作者に起用され活躍できる可能性を持った数少ない日本俳優の一人であることは間違いないと思います。応援したいですね。





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