夏を超えた映画【洋画篇Vol.2】カンヌ映画祭とアカデミー賞を賑わせた最新作 「パラサイト」「1917」を【ネタバレ】スレスレ徹底解説!

ほんの、ほんの少しだけ秋の気配を感じる今日この頃、皆様いかがお過ごしですか?

連日の熱中症警戒アラート発令ですっかり巣ごもり生活が板につき、冷房の効いたお部屋での映画鑑賞が新しい日常となった、かもしれない皆様におすすめ映画を紹介する気ままな企画の第二回。


今日は賞レースを席捲した話題の二作品を、これから御覧になる方のためにネタバレは最小限で熱く語ります。



一本目は昨年のカンヌ国際映画祭、パルムドール(最高賞)受賞作にして今年のアカデミー賞で主要4部門(作品、監督、脚本、国際長編映画)まで獲っちゃったポン・ジュノ監督の「パラサイト 半地下の家族」。アカデミー賞で韓国映画が「作品賞」に選ばれたのも初めてなら、アジアの映画で初、いや非英語作品が選ばれたのが初。これ、クロサワもイマムラも成しえなかった歴史的快挙。獲っちゃったって書いたけど獲りに行って獲れるものなのか?映画賞。凱旋門賞獲りに行っていまだに獲れない日本馬のことを思うと道のりは険しかったはず。武豊さん、いつか悲願達成お願いします。(この例え正しい???)

ともあれ、韓国映画というと個人的にはキム・ギドク監督のディープな世界観にノックアウトされて以来しばらくご無沙汰していました。何というかパンチの効いたサムゲタンでお腹一杯になった後(褒めてます!)しばらく冷や麦でいいやと思っていたところに、ドライフルーツとブルーチーズでストリチナヤを嗜むような味わいの韓国映画が現れた感じ。(この例えで果たして伝わっているのか???自信なし・・・)

この映画、私にとってコロナ禍になる前に劇場で観た最後の映画になっちゃった。やっぱり本来は映画鑑賞って劇場に足を運んで体験すべきものだと思いますよ。でもねぇ、正直まだちょっと安心してスクリーンに集中出来ないと思う今日この頃であることが悲しいですね😢😢😢

ストーリーを雑に説明すると、半地下という韓国に実際にある貧困層用住宅に住む4人家族が、丘の上の美術館と見紛うような豪邸に住む一家に巧妙に入り込んでパラサイト(寄生)してシメシメ、っていうのが前半。で、その後予想だにしない展開が待ち受けて怒涛のラストに暴走していくのが後半。

貧困層vs富裕層の対立をコメディータッチで描きつつ、とても洗練された仕掛けとサプライズが用意されていて最後まで飽きさせない。貧困家族の父親は「計画がある」が口癖なのだけれども、お金持ち一家がキャンプで留守なのをいいことに、豪邸で一家4人酒盛りパーティーをやっちゃうような無軌道さ。でも4人それぞれが、運転手、家政婦、娘の家庭教師、息子のセラピストとして律儀に働いていて憎めない上に何だか楽しそう。監督が巧みなのは、対するお金持ち一家を高慢で鼻持ちならない俗物という、ありがちなパターンに落とし込まないところ。お金もあるけど節度もある善良な一家として描いている。特に奥様は家政婦がいなけりゃ家事もおぼつかないぼんやりさんで、清々しいまでの騙されっぷりが可愛らしくも滑稽で、こちらも憎めない。運転手として豪邸一家に入り込んだ半地下の父親(主人公)と奥様が2階のサウナ室で2人だけの秘密を共有する場面、二人の手が触れ合ったあとの奥様の反応と主人公の表情・・・「奥様、ナイス!」です。

    奥様役のチョ・ヨジョン様        主人公(半地下の父親)のソン・ガンホ様


さて、物語が面白くなるのはここから先。後半の展開は皆さん自身で確かめてください。怒涛だよ。暴走するよ。(と煽っておく・・・)

貧困と格差って、これ、一昨年のカンヌでパルムドールに輝いた日本映画「万引き家族」と同じテーマだよね。「万引き家族」が実話をヒントに重要な役割を子供の視線で捉えたウェットで身につまされる内容だったのに対し「パラサイト 半地下の家族」はとってもドライ。世界共通の普遍的なテーマをユーモアの糖衣をかぶせながらとても冷めた目で描いていて、それがこの映画の魅力の一つとなっています。





さて二本目はアカデミー賞大本命と言われ作品賞、監督賞こそ「パラサイト 半地下の家族」にさらわれたけど最多10部門ノミネート中、撮影賞、録音賞、視覚効果賞を受賞した「1917 命をかけた伝令」

大画面で観たかったけど、残念ながら劇場で観られずステイホームでの鑑賞。

監督のサム・メンデスはもともと英国のロイヤル・シェークスピア・カンパニー(名門!)の舞台演出家でハリウッドに招かれた映画監督第一作の「アメリカン・ビューティー」(1999年)でいきなりアカデミー賞作品賞を受賞した「持っている」監督。その後英国の国民的映画007シリーズの「スカイフォール」と「スペクター」の監督としてジェームズ・ボンドをチャラ男のスパイから苦悩する普通の人(?)にキャラ変させた犯人いや功労者。ロンドンオリンピックの開会式で女王陛下がパラシュートでメイン会場に降りてくる演出もこの人だったと記憶。

そんな巨匠が選んだのが第一次世界大戦(1914~1918)の激戦地、西部戦線(ベルギーからフランス北東部)で重要な任務を帯びた若きイギリス兵の一日を追ったドラマ。ちょっとおさらいしておくと、当時日英同盟のしがらみがあって日本もイギリス、フランス、ロシアなどと共に連合国軍側に参戦しています。だけれども、主戦場が遠いヨーロッパ大陸だったこともあり、私たち日本人にとって第一次世界大戦って当事者感なくないですか?日中戦争や太平洋戦争とは雲泥の差。そんなわけでこの映画、割とフラットな目で観ることができたけど、祖父が西部戦線にイギリス軍兵士として出征したメンデス監督にとって、この戦いはモロ当事者。これは予備知識として頭に入れてご覧ください。

で、ストーリーをすごく雑に説明しちゃうと(またかよ)重要な任務ってのは一触即発の最前線にいる1600人の味方に、明朝までに作戦中止の命令を届けること。この伝令が間に合わなければ味方兵士全員が命を落とし、イギリスは戦いに敗北することになるわけ。イギリス兵二人が司令官に呼ばれるところから始まるんだけれども、しばらくすると気づきますよ。あれっカット割ってないって。ずーっと長回しのワンシーンのように撮影されているよって。兵士二人の目線で塹壕の中を進んでいざ敵地へって。めちゃくちゃハラハラしましたよ。

これってだれの撮影?と思ったら、おおーっ、ロジャー・ディーキンスじゃん!

皆さん「007スカイフォール」のオープニング覚えてますか?カットを割りながら車とバイクの疾走感を増幅させる演出、あまりのカッコよさにあのオープニングだけで卒倒しかけたよ、わたし。

それだけじゃなく、コーエン兄弟作品のほとんどがこの人の撮影。もしかしたら一番観ている撮影監督かも・・・。

あっ、脱線しちゃったけど、ワンカットのように見せて観客を極度の緊張状態に持っていくのは、ラストへの伏線なんだと思いましたよ。決して手法に溺れることなく観客を兵士目線で戦場体験させる。なんとも酷い映像に言葉では言い表せない結末・・・。ダメダメ…これ以上はネタバレ。

戦争の悲惨さ虚しさをどんな風に描いているか、皆さん自身で確かめてくださいね。

伝令を運ぶウィル役のジョージ・マッケイ君とブレイク役のディーン=チャールズ・チャップマンちゃん (親しみを込めて敬称略)二人の運命やいかに・・・?


伝令を渡すエリンモア将軍役のコリン・ファース様と受けとる側マッケンジー大佐役のベネディクト・カンバーバッチ様ワンカット手法だから出演はワンシーンのみ!見逃すな!!

さてここからは個人的な感想です。戦争には大義も正義もない。総力戦で戦った4年間に意味なんてあったのか?もう戦争こりごりって誰もが思ったはずなのに・・・。

このわずか20年後の1939年9月にはドイツ軍がポーランドに侵攻し、さらに悲惨な第二次世界大戦へと突き進んでいくのは歴史が証明するところ。歴史にif(もしも)はないけれど、この第一次大戦の戦後賠償でドイツをあれほどコテンパンにしなければ、ヒトラーのような怪物は現れなかったのか・・・??

そんなことを今も連綿と続く戦争について考えながら今年も暑い夏が巡ってきました・・・。第一次大戦では戦勝国側だった日本だって、ほら75年前にはアメリカにコテンパンにやっつけられちゃったわけだからさ。

皆さんにはこの映画を観てぜひ未来と平和について考察してもらいたい。

そんな風に感じた作品です。(しんみり・・・)

切り倒された桜の木に唖然とする二人。中盤のもっとも印象に残るシーン。(しんみり・・・)


昨年の国際的映画賞を賑わせた2作品の紹介いかがでしたか? アジアとヨーロッパ。現代的な格差・貧困問題と第一次世界大戦の局地戦。出所もテーマ性も異なる2本の共通性を強引に引き出すとすれば、

『相対化=エンタメ化』でしょうか。「パラサイト 半地下の家族」の描く格差社会はあくまで舞台設定であり巧妙な仕掛けでもあります。ポン・ジュノ監督は洗練されたハリウッド的映像技法を駆使し、臆することなく社会問題的テーマをドラスティックに変調させてしまいました。一方「1917 命をかけた伝令」は、過去凡百の作品が描き尽くした感のある「実録戦争」映画。サム・メンデス監督はこの作品に戦場を舞台設定としたゲームアプリの世界観を援用して撮ったフシがあります。主役目線の長回しのカメラワークやハリボテ感のある戦火の街の風景に観る者はソシャゲに参加するようにすんなりと引き込まれる構造です。両監督は共にそれぞれの作品のジャンルやテーマに持たされてきた過去の前提(教条、告発、反省、改革など)を否定はせずに、巧みな映像表現で相対化(エンタメ化)してみせました。その意味で、この二作品は若い世代の観客を強く意識して作られていることは間違い無いでしょう。

確かに日本の若者が「パラサイト」と「1917」をどう楽しむのか興味が尽きません。どうぞご覧あれ。

夏を超えた映画はまだ続きます。…次は日本映画かな?




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